凡人は歴史に学ぶ

歴史を学ぶって、まさに人間学なんですよね。

日本政府の鷹揚

 まことに有難いことに、わが日本では古い文献が実に数多く残っています。『古事記』をはじめ、『万葉集』『竹取物語』『土佐日記』『枕草子』『源氏物語』など、他にも数々の文献・作品が今に伝えられています。その理由は、日本人が古いものをとても大切にしてきたからというのがいちばんですが、もう一つ重要な理由は、歴代の政府が鷹揚だったことにあるのではないでしょうか。

 たとえば『大鏡』(作者不詳)は、藤原政権の内幕が赤裸々に記述されています。藤原氏は、天皇を騙して退位させるといったあくどいことをやっていて、それがあからさまに書かれています。藤原氏が横暴なふるまいをしているということは、その後ろ盾となっている天皇にも責任があることになります。藤原氏天皇が政治を勝手にやっているという話を『大鏡』は書いており、いわば反体制の書です。それを当時の人たちは喜んで読んでいたわけです。

 また、紫式部が書いたとされる『源氏物語』も、源氏が藤原氏に政争や恋愛に常に勝利するという、藤原氏にとってはまことに面白くない内容になっています。そして紫式部藤原氏側の一員です。そのため作者は別人だという説もあるほどです。しかし、藤原氏が、『大鏡』や『源氏物語』に対してどうこうしたという記録は一切ありません。発禁にもされず、藤原政権はきわめて鷹揚だったというほかありません。

 その鷹揚さは、その後の政権でも殆ど変わりません。明治時代の日露戦争のとき、歌人与謝野晶子は「君死にたまふこと勿れ」という歌を詠みました。この作品が『明星』に掲載され大きな反響を呼んでも、明治政府は何もしませんでした。ふつうの立憲君主国だったら『明星』を発禁にして、与謝野晶子を拘束してもおかしくありませんが、そうなっていません。

 同じ時期、内村鑑三幸徳秋水反戦論を主張していましたが、これらにもお咎めはありませんでした(ただし幸徳秋水は後に大逆事件で逮捕・処刑される)。ことさように歴代の日本の政府は鷹揚であり、それが日本の古い文化を守ってきたという面があるのではないでしょうか。

 

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